今の嫁と付き合い始めたのは大学生の時です。
学生である気軽さで嫁の実家へは頻繁に出入りしていて、夕飯を一緒に頂いたり、正月を帰省せずに嫁の家で過ごしたりと、
嫁の両親を前にしての緊張感などは全くありませんでした。
ですから世間でよくある様な、結婚の挨拶に行って大緊張という事はなかったのですが、私の場合はまた違った意味で一世一代の大勝負でした。
何故かというと、いわゆる出来ちゃった結婚だったからです。
嫁の生まれ育った集落は、戦国時代の文献にも登場する様な大昔からある村で、嫁の実家はそんな土地の古い農家です。
だからといって決して堅苦しい家風ではありませんが、都会の庶民育ちの私が知らない様な古い村的気質が残っているかもしれない、と私なりに理解していました。
だから、学生の分際で子供ができたから結婚させてくれと告げた時の、お父さんの反応は予測できませんでした。
というわけで、私としては張り倒されても頑張り通す覚悟を待たざるを得ませんでした。
人間、本当に覚悟を決めると居直れるもので、そうなると腹が据わるのか、単なる興奮状態だったのか、緊張や恐怖感は覚えがありません。
「殺されはせんだろう」というセリフが出て来る様な心境だったのだろう思います。
いまでもその時の光景ははっきり覚えています。
お父さんは胸の前で腕を組んで厳しい顔で天井を睨み、お母さんはその横でオロオロと涙さえ見せていました。
私は、親からの仕送りが○○円あって今のバイトで○○円稼げるから生活が可能である事、折角授かった新しい命を大切にしたい事を、只々懸命に話しました。
お父さんのその時の具体的な返答の言葉は全然覚えていませんが、
結婚後随分経ってから、金額まで出して生活設計を説明していたから許したんだ、という話をしてくれました。
あれから40年以上経った今、振り返って考えても、あの時程に覚悟を決めた事は二度とありません。